飼い殺しな王子と魔女の花嫁

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 メイドにまで強く根付いている偏見を感じつつ、シャロンは何も言わず、紅茶をゆっくりと飲んだ。    アルジェと暮らしはじめて数ヶ月が経つ。  金の髪だらけの国で、旦那である黒髪のアルジェは悪い意味でよく目立った。だがアルジェの嫁であるシャロンはアルジェと暮らしていて特段居心地が悪くない。  むしろこんな日々が長く続けば……と祈るばかりだった。  アルジェは貴族の令嬢でありながら、魔女でもある自分を受け入れた、数少ない存在なのだから。  そういえばとローズマリーが、紅茶が濃くならないよう、ティーポットにお湯を足しながら言った。 「もうすぐ、ヴァレンティンですね」 「ヴァレンティン?」  聞いたことのない単語に、シャロンは不思議そうに頭を傾げる。 それに、ローズマリーは口に手を当てて驚いた。 「あら、シャロン様。もしかしてヴァレンティンをご存じないのですか……?」  シャロンはサンドイッチを小さく食べつつ、静かに頷いた。 「聞いたことがないわ……それは、どんなモノなの?」 「モノ……というよりはイベントですわ。家族、兄弟、恋人、子供、愛している人に、感謝を伝える日なのです」  その説明にシャロンの琴線が触れるのを感じ、シャロンはローズマリーに目をやった。 「まあ、そんなイベントがあるのね。素敵ね」 「ガーリェ国では誰もが知っていると思っていましたが、シャロン様はその、お知りではなかったのですね」 「そうね……私の周りでは誰も教えてくれなかったわ」  シャロンはミルクに染まる紅茶を、じっと見た。そうだ、自分にそんな素敵な日を教えてくれる人はいなかった。もしかしたら自分たちの未来を見越して、シャロンの感情を募らせないためだったのかも知れない。  ローズマリーはシャロンを気遣うように、声を上げた。 「ならば、今年からやってみてはいかがでしょう。シャロン様のご家族に贈ってみてはいかがですか!」 「家族……喜ぶかしら?」 「喜びますとも! そうだ、ご家族でなくても感謝は出来るので、ゆっくりと考えてみてはいかがでしょう」 「ええ……考えてみるわ」
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