第2章

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「溝口主任、おはようございます」 「ああ、おはよう」 「主任、プレゼン書完成しました!」 「そうか、それは良かった。じゃあ、さっそく今日のミーティングで検討しよう」 「はい! それから、昨日はコーヒーありがとうございました。そのおかげで頑張れました」  出勤してすぐに主任にプレゼン書が出来上がったことと、缶コーヒーのお礼を伝えよう。そう思っていた。 「え? コーヒー?」 「私の机の上に置いてくれてた……」  主任は意味がわからないって顔をしている。 「主任じゃないんですか?」 「え?」 「溝口主任、お電話が入っています」 「あ、横井さん、1番にお願いします」  主任に電話が入り、話はそこで途切れた。  主任と話が噛み合わず、俺は、狐につままれたような気分で、席に腰を下ろし、主任の電話が終えるのを待った。   「ごめん、沢口君、さっきの話、途中だったけど、コーヒーがなんだって?」 「いえ、勘違いでした……アハハ」  てっきり溝口主任が置いたものと思っていたが、主任が嘘をついている風でもない。  俺は、取り敢えず笑って誤魔化すしかなかった。  俺の勘違いなのか?  でも、あの時、1係で残っていたのは主任と俺だけだったはず……?  昨日、森山先輩が先に帰って、それから横井さんが帰って、そのあと白鳥先輩が先に帰った。  それまでは、机の上にコーヒーは置かれていなかった……。  いくらパソコンに集中していたとはいえ、置かれたら絶対に気づくはずだ。  いや、でも缶コーヒーは買ったばかりで温かった。だから、やっぱり、俺がトイレに離席している間に誰かが置いたのは間違いない。    でも、いったい誰が?  まるで犯人探しのように探偵気分で推理する。  あの時、1係の他に2係、3係にも数人残っていたのは間違いないが、俺に缶コーヒーを置くようなやつっていただろうか……?   「沢口君のプレゼン資料をみんなで検討するから午後1でミーティングルームに集まってください」 「はい」 「沢ちゃん、もうできたって! 仕事早いなあ」 「森山先輩、ありがとうございます」 「自分の箇所は今日で完成するからね」 「お願いします!」    結局、コーヒーの犯人探しは、うやむやになったまま。  忙しさの中に紛れて次第に忘れていった。    後になって点と点が繋がるのだが……  それはずっと後のことになる。    
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