第3章

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 プレゼンのスケジュールは、今日、明日と3件ずつ取引先を回る予定になっている。    まず、最初に向かうのは、大手の老舗デパート丸越屋。  我が社との取引の歴史は長く、関係は良好らしい。  しかし、だからと言って、商売に関してはシビアな大人な世界。安心は禁物で、新商品をどれくらい置いてくれるかは、今日のプレゼンにかかっている。  丸越屋本店の事務室に着いたら、まず、新商品のプレゼンを俺と森山先輩の2人で行い、白鳥先輩は資料配布や資料の説明を担当することになっている。  そして、最後に一係全員と取引先の担当者全員がテーブルに着いて、交渉という流れだ。     自分のありったけ、ベストを尽くしてやろう。  そう心に決め、先方に向かって、映像とともに、プレゼンを始める。  緊張したのは最初のほんの少しで、話進めているうちにいつの間にか夢中になっていた。 「以上となります。どうぞよろしくお願いいたします」  あっという間の時間だった。  自分なりに満足して一礼をする。 「この新商品、キャッチフレーズがいいですね」 「ありがとうございます」 「それに、俳優Aさんの起用もぴったりですね」    うまくいった!  先方から伝わってくる感触でわかる。    その後のバトンを渡した森山先輩もさすが慣れたもので、関西弁は全く出ない。普段はお茶目なだけで、やっぱり、やる時はやる先輩だと思う。白鳥先輩の資料説明も滞りなく進み、最後まで和やかな雰囲気で行われた。   「溝口さん、それでは、後日、お返事させていただきます」 「わかりました」 「弊社内部上の手続きがありますので、いますぐにご回答できないので申し訳ありません」 「ええ、もちろん承知しております」 「多分、御社の御意向に添えると思います」 「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」 「沢口さん、今日は面白いプレゼンでしたよ」 「あ、ありがとうございます!」 「良いお話お待ちしております。本日は、貴重なお時間、ありがとうございました。私たちはこれで失礼いたします」  エレベーターホールに出るとすぐに、互いに顔を見合わせ、皆でガッツポーズ。  笑顔が綻んだ。   「沢口君、良い出来だったよ」 「ほんと、沢ちゃん、うん、良かった」 「沢口君、堂々としていたわよ」 「ありがとうございます!」  俺たちは、次の取引先に向けて、丸越屋のエレベーターに乗り込んだ。  その時、主任の携帯の着信音が鳴った。
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