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「2係の葉山君が、バイクで持って来てくれるらしい」
「えー! あの葉山が!」
つい、大きな声で驚いてしまった。
あの、嫌味な葉山が助っ人に買って出るわけがないと思っているからだ。
そういえば、葉山は、バイク通勤だと言っていたのを思い出した。飲み会の席で、二輪バイクの免許を自慢げに見せられたのを覚えている。
あのドヤ顔を思い出し、腹立たしさが燻りそうになった。
「彼、沢口君の同期でしょ……」
「ええ、まあ……」
「なんか、不服そうやなぁ」
「いえ、別に……そういうわけでは……」
しまった…… つい本音が出そうになった。
葉山を避けていることは、誰にもバレないようにはしているが、正直な気持ちが思わず出てしまったのだ。
「でも、そういえば、あまり、一緒にいるのをみたことないなぁ。もしかして、仲が悪いんとちやう?」
執務室ではあまり絡んでいないので、森山先輩の言葉に内心ドキリとした。その時、バイクのエンジン音が聞こえて来た。
二輪の大型バイクがエンジン音を大きく響かせ颯爽と現れ、俺たちの前で車輪を斜めに滑らせて止まった。
バイクから跨った足をスラリと伸ばし、黒光りするヘルメットを外す男に皆の視線が集まる。
「葉山君!」
白鳥先輩の嬉しそうな声。
一瞬、葉山は、まるで子供の頃憧れたヒーローのように見えた。
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