第3章

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 二輪バイクを降り、近づいて来る男に注目が集まる。  晩秋の柔らかな日差しが一層その男を引き立てた。 「お待たせしました」葉山は、そう言うと、背負ったリュックカバンから茶封筒を取り出した。 「これ、横井さんから預かった書類です」    葉山って、こんなやつだったけ……  みんなに振りまく葉山の笑顔が今まで自分が思っていたのとは違う。  いかにも、爽やか…… って感じだ。    久しく同期の飲み会に行っていないし、会話もなるべく避けていたせいか、とても不思議な気持ちになった。 「葉山君、ありがとう。助かったよ」 「ほんま、サンキュうな」 「葉山君、ほんとありがとう。落ち着いたらごはん一緒に行こうね」 「ええ、ありがとうございます。間に合って良かったです」  本当は、葉山にもいいところがあるのかもしれない。  今まで嫌だと思っていたやつが、あることをきっけかに良く見えたり、本当はいいやつだと気づいたりする話はドラマだけだと思っていたが、本当にあるんだな……。  俺は、その立ち居振る舞いをずっと横から観察しながら、葉山の意外な一面を、黙って見ていた。  葉山は、「みなさん、頑張ってください。それじゃあ、僕はこれで」と一礼し、立ち去りながら、俺の真横に顔を近づけて来た。 「沢口、お礼は、ビールでいいから」  俺だけに聞こえる声で囁いた。 「え!」俺は、思わず、拒否反応で体を仰け反った。 「じゃあなっ!」  葉山は、俺の肩をポンと叩き、いつもの憎たらしい言葉と笑顔を残してバイクに跨った。  俺を挑発しているのか、大きくエンジン音をたて、葉山は、去って行った。  前言撤回!  一瞬でもいいやつだとか、爽やかだと思った自分が馬鹿だった。  あいつは、ヒーローなんかじゃない!  きっと、下心があったに違いない。ここで、借りを作っておけば何か自分に利益があるだろうと思ったのだろう。  やっぱり、所詮、こいつはこんなやつだ。  絶対そうだ。   「主任、早く行きましょう!」  俺は、先ほどまで萎みそうだった闘士が再び燃えたぎり、大股で三和商事の玄関へと向かった。      
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