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第4章
「今年は、我が社にとって……」
社長の長い挨拶が終わり、皆一斉にシャンパングラスを手に持つ。
「それでは、皆さまご唱和ください。カンパーイ」
「カンパーイ」
総務課長の乾杯の音頭に、我が社、社員総勢300名がシャンパングラスを威勢よく高らかに挙げる。
圧巻とは、まさにこのことだ。
ホテルの式場を貸し切っての大忘年会が賑やかに始まった。
不況の中、我が社の今年の売上は右肩上がりで、社内の雰囲気は非常に明るい。
特に、新商品が開発されたこともあり、来春の発売に向けて、その期待感が高まっている。
マーケティング部1係が中心となっている新商品のマーケティング計画も着々と進み、前途揚々たる状況に活気が上がっていた。
「沢口君、今日は、特別いいことがあるよ」
「え? 何ですか?」
同じテーブルの溝口主任が小声で意味深に笑った。
何のことか聞き返す間もなく、壇上に立った司会進行役の声に注目した。
「宴もたけなわというところですが、ここで、今年、頑張った社員をご紹介したいと思います」
そこで、先ほどまで流れていたバックミュージックが変わった。
「お名前を呼ばれた方は、壇上にお上がりください。まず、総務の吉井さん……」
拍手と歓声が湧き起こる。特に、総務部が同僚の選出を一層拍手と歓声で後押ししている。
「次は、営業部の山本さん、そして、マーケティング部の沢口さん、葉山さんです」
大きな拍手と歓声がさらに輪を掛ける。
まさか、自分の名前が呼ばれるとは。しかも、葉山も?
主任がいいことがあるとはこのことなのか。
振り返ると、大勢の拍手と笑顔が俺を囲んでいる。溝口主任は大きく笑顔で頷き、俺の肩をポンと叩いた。
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