第4章

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 とにかく、思い出せ。    キッチンに立ち、コーヒーメーカーに粉を入れ、セットしながら考える。    2次会は、部の垣根を超えて、普段話さない人とおしゃべりに花を咲かせて盛り上がり、楽しかったこと。  カクテルがおいしくて、ついつい飲んで、それから……  断片的だが、少しずつ記憶を呼び起こす。  タクシーに乗って、誰かに抱えられて、この部屋に運ばれた……  でもそれが誰だったのかが思い出せない。  酩酊した俺をここまで運んでくれたその相手に申し訳ない気持ちになり、余計に焦る。    誰かに水を飲まされ……  ベットとソファーの間に置かれてあるローテーブルの上には、少量の水が入ったグラスがある。    ベットに寝かされ、ネクタイを解かれ、ボタンを外されて……  記憶が一気に流れ出ていく。  そして——     っつ!    瞬間、唇に残る感触がリアルに舞い降りた。    躊躇(ためら)いながらも、吐息が鼻を(かす)め、柔らかで、優しい唇が重なる。  愛おしく重ねた唇が、名残惜しく離れていく。    いつの間にか、俺は、目を閉じてその感触を辿り、胸の奥が疼いた。  あれは夢ではなかった…… のか。  自分の唇に指先で触れた。  カサついてると思ったかな……    何言ってる!   思わず自分にツッコミを入れた。  心臓が早鐘を打つ。  いったい誰が!  どうして……  その顔だけがどうしても思い出せなかった。  コーヒーのいい香りが鼻を(かす)める。  コーヒーメーカーのコポコポという音がいつもより大きく響いているような気がした。      
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