第5章

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「おはようございます」 「お、はようございます」  白鳥先輩が出勤して来た。  パープルの柔らかなブラウスに、明るいグレーのフレアなスカートを合わせた気品を感じさせる装いだ。  今日もいつになく美しい。 「沢口君、何?」  目が合い、ドギマギしてしまう。つい見とれてしまっていた。 「いえ、何でもありません」    森山先輩の話を整理すると、あの2次会の後、俺を送ってくれたのは、主任と白鳥先輩とあと考えたくもない葉山の3人。  この3人の誰かが俺にキ……ス……をしたことになる。  もし、それが白鳥先輩だったら……  そう思うと心拍数が上がる。    3人の容疑者がわかった今、その一人である白鳥先輩に、自分から積極的に金曜の夜について話題を出すのは怖い。  白鳥先輩から言ってこない以上は不必要な発言は控えよう。    俺は、白鳥先輩の様子を時々伺いつつ、上がる心拍数を抑えながら、勤務前の準備を整える。 「おはようございます」 「おはようございます」  横井さんが出勤して1係は全員揃った。数分後、始業開始のチャイムが鳴った。  取り敢えず、集中、集中  気持ちを切り替え、仕事モードに入る。  パソコン画面と資料とを往復しながらキーボードを叩く。    それとも、まさか、主任?   作業に没入していたが、1時間ほど経つと、油断してムクムクと妄想が暴走し始めようとする。    ない、ない、ない!  降って沸いた自分の思考を、一人芝居みたいに慌てて掻き消した。    何考えてんだ俺、主任は男だろっ!  そんなことあるわけ……  デスクで調べ物の主任を見てドキリとして向かいの白鳥先輩に視線を移した。  白鳥さんが余裕でニコリと笑顔を返す。  白鳥さんは俺を見ていたってこと?  まずっ!   「休憩して来ます!」  落ち着け、俺。  即座に立ち上がり、自販機のある休憩室へと向かった。  
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