第5章

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 お昼時間。食堂は社員で、相変わらず賑わっていた。   「お疲れさん」 「ご飯、大盛りで」 「はいよ、大盛り」 「ありがとうございます」  流れ作業のようにお膳にご飯や味噌汁を乗せていく。   「へー、沢口君って、社食のおばちゃんたちに人気だね」横井さんが味噌汁を受け取りながら厨房を覗き込んでいる。 「人気だなんて、いっつも利用してるから、顔覚えられてるんですよ」  一般的に言うと、社員食堂の食事は、味はそこそこだが、ここの社食は非常に美味い。しかも、500円ワンコインで食べられるのだから、入社2年目の自分にとって家計に大いに助かっている。  今日のメニュー。  白身魚フライのタルタルソースに、サラダとヒジキの煮物の小鉢、そしてデザートはオレンジゼリー。  献立もバラエティーで、それが楽しみで、いつも利用している。独身一人暮らしの自分にとって、ここで栄養を満たしているといっても過言じゃない。  そのせいか、社食のおばさんたちとは顔見知りになり、懇意にしてもらっている。  自分がいつも座る窓際の席もちょうど空いていて二度嬉しい。  心躍りながら、その特等席に白鳥先輩と横井さんを案内した。 「美味しい」 「でしょ、美味いし、安くて最高ですよ。でも、白鳥先輩が社員食堂なんて珍しいですね」 「今日は、行きつけのカフェがお休みなのよ。でも、社食も結構美味しいわね。私もたまには利用しようかしら」  白鳥先輩が美味しそうに食べるのを見て、こっちまで嬉しい気持ちになる。 「横井さんは、お弁当、今日はお休みですか?」 「今日は作るのが面倒くさくて……。外で食べようって思ってたけど、ここに来てよかった。社食の料理人が代わって美味しくなったって噂、ほんとだったんだね。美味しい、沢口君誘ってくれてありがとう。お弁当作るの疲れたらたまにはここにしようっと」  他愛もない話で先ほどまでの緊張がいつの間にか、解けていた。  いつもは男性同士で食べる昼食も、女性と食べると話題も違って華やかな気がした。  
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