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「そういえば……」
お腹が満たされた安堵感の中、白鳥先輩が口を開いた。
何を言い出すのかと急に胸が縮こまりそうになり、その口元に集中する。
「……沢口君の住んでるマンションって外観が凄い立派よね。初めて見て驚いたわ」
あ——
心臓がドキリと飛び上がる。
先日の2次会の後、俺を送ってくれた日のことだよな……。
ずっとその話題に触れないように避けていた努力が、ここに来て無駄になった気分だった。
話の展開がこの先どうなって行くのか、予想がつかなくて怖い。
「そう、ですか?…… 築年数は結構古かったと思います」
「そうなんだ」
「ええ……」
俺は、残った水を一気に飲み干した。
「間取りは? 3LDKくらい?」
「ワンルームですけど……?」
俺の部屋に入ったはずならわかるだろうに、白鳥先輩の質問の意図が全く読めず、歯切れが悪い答え方になった。
「外観から3LDKぐらいはあるって感じよね。あのマンション」
「ああ、ワンルームや、そういう家族世帯用の間取りもあるみたいです」
「沢口君、家賃っていくらぐらい?」
横井さんも興味津々に話題に割って入ってきた。
「ワンルームは管理費込みで6万円です……」
「へえー、都心にしては、結構安いのね」
白鳥先輩は、先ほどからいちいち、感心している様子だった。
「そうかもしれませんね。不動産屋さんが掘り出し物件だって言ってました」
「そっかぁ、私の従姉妹が来年大学を卒業して一人暮らしするんだけど、物件探してて、その不動産屋さん、教えてくれる?」
「あ、はい、あとでお教えしますね。多分、デスクの引き出しに名刺があったと思います」
なんだ、そういう話かと、安心しかけたその時、
「沢口君の部屋、参考に見たかったなあ……」と白鳥先輩が呟いた。
「ええっ!?」
自分の大きな声に、前の席で食べている職員が後ろを振り向くのが見え、思わず口を押さえた。
「白鳥先輩、2次会の後、俺の部屋に入ったんじゃ?」
「え? 沢口君、覚えてないの?」
「はい、じつは……」
俺は、恥ずかしいやら、申し訳ないやらで複雑な気持ちになった。
「主任と葉山君と私で沢口君を送って行こうとタクシーに乗ったのは覚えてる?」
「実は、あまり覚えていないんです……」
ここは正直に答えた方がいい。
そう思い、潔く認めることにした。
「ヤダー、沢口君。そうとう酔ってたわけね」
「はい……」
「まあ、若いうちは失敗もあるわよね」と横井さんのフォローにもかかわらず、白鳥先輩と横井さんは、思いっきり笑っている。
でも、そのおかげで気持ちが楽になった気がした。
「だからね。沢口君のマンションに着いて、私も沢口君の部屋に行こうとしたの。でも、主任と葉山君が、2人で大丈夫だし、もう遅いからそのままタクシーで帰りなさいって言うから、結局、私だけ降りずに帰ったわけ」
白鳥先輩は、タクシーを降りずに、そのまま帰った……
知りたくなかった真実。
つまり、白鳥先輩は俺の部屋には入ってはいない。
一気に奈落の底に落とされた。
ということは……
ええ——っ
心で叫ぶ
犯人は、主任と葉山のどちらか——
目眩がしそうになった。
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