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「疲れた……」
家に帰ってすぐにソファーに身を投げ出した。
着替えもせず、しばらく宙を見ていた。
「あーっ」
今日一日の出来事を思い出し、頭を掻きむしる。
何で、こんなに悩まなければならないのか。
特に、白鳥先輩との昼食後、悩みはますます大きくなった。
主任の顔をまともに見ることさえできなかった。
どうせなら、白鳥先輩がキスの相手だと思っていたほうがずっと良かった。その方が、幸せだったのに……。
知りたくなかった真実。
葉山は絶対イヤだが、主任であっても困る。
だって、主任は既婚者じゃないか……
いや、問題はそこじゃないだろ。
相手が男だってことだろ。
とひとりツッコミを入れ、上体を起こし、長い溜息をついた。
俺の大切な大切なファーストキスをあんなシチュエーションで、しかも相手が男であることが、何よりショックではないか。
高校は男子校で、大学でも女子と付き合った経験がなく、夢にまでみたファーストキスへの夢。
その相手がよりにもよって男とは……
もしかしたら……
俺の妄想なのかもしれない。
酒に酔ったせいで理性が外され、ステキな人とキスをしたいという願望がストレートに出てしまった。だから、あのような夢を見たんだ。
きっとそうだ。
そう無理に思い込もうとした。
しかし、夢うつつの中であっても、唇の感触が生々しく残っている。
……顔に微かにかかるあの息遣い。
ただの悪戯ではなく、それは、躊躇いがちに、でも、愛おしさを伝えてくるような……
目を閉じ、自分の唇に指先で触れてみる。
——そして、優しかった。
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