第1章

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 自分が提案した新商品のキャチフレーズは 『男が惚れる男へ』——    それは、試供品の香りを嗅いだ瞬間、天から舞い降りてきた。  爽やかな風を湛え、それでいて、心の奥には熱い情熱を秘め、自分のルールや美学を持つ、いわゆる”ダンディー”な男。  自分ならきっと惚れてしまうだろう男性のイメージが脳内に広がり、その感じたままを、素直に表現したのだ。    お客様に香水を手に取ってもらうために必要なこと。  TPOに合わせ、香りで、どう自分を演出し、伝えたいのかを、イメージさせること。  入社した時からそう教えられてきた。  だから、この新商品を手に取っていただいたお客様が、その香水の香りをイメージできるようにと意識していたことが、その発想へと繋がったのかもしれない。    さっそく溝口主任から「これならいける!」との太鼓判を受け、キャッチフレーズのプレゼン応募資料の作成に取り掛かかった。締切日までのほぼ1か月は、それはもう経験したことのないことばかりで、とても勉強になった。  溝口主任や田中先輩にアドバイスをもらいながら、試行錯誤しながらできた資料は、結果はどうであれ、自分なりにやり切った感はあった。  あとは、落選したとしても、この経験は次に活かせる。  2年目だからこそ、それくらい余裕な気持ちでいられたのかもしれない。   「沢口、やったな! 1係がプレゼン権獲得!」  1係の仲間からの祝福の嵐。 「よぉっし、沢口、忙しくなるぞー! 沢口、とりあえず、キャッチフレーズの提案書を1係全員の分コピーを用意しておいてくれ」 「あ、はい、主任、わかりました!」  俺は、今、やる気に満ち、最高の気分だ。
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