第6章

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第6章

 クリスマスまであと一週間  楽しみな予定があるというだけで、2倍も3倍も仕事の励みになるなんて思ってもみなかった。 「沢ちゃん、最近、楽しそうやん」 「そ、そうですか……」 「クリスマス。タコパだろ……わかりやすいなあもう」と横から森山先輩に肩をどつかれる。 「もう、森山先輩、からかわないでくださいっ」  何かと横から身を乗り出してちょっかいを出してくる森山先輩と、自分。  端から見たら、ほとんど関西の漫才みたいだろう。  でも、森山先輩の言葉は図星、ど真ん中。  横井さん主催のたこ焼きパーティーが楽しみで、素直に態度に出てしまっている自覚はある。    いったい、どういうメンバーが来るのだろう。    いい出会いがあるといいなあ……  なんとなくそう思った。  本社は大所帯。同じフロアーにいても、同じ部、同じ課にならないと一生 見知らぬままっていうこともありえるらしいからだ。  だから、今回のたこ焼きパーティーはかなり期待をしていたのかもしれない。 「沢口、お疲れ」  振り向くと、苦手な葉山が立っていた。 「へっ、何!」思わずのけぞってしまった。 「おまえにやるよ」 「えっ、何これ」  葉山が差し出したのは、俺がいつも好んで飲んでいるホットコーヒー缶。 「おまえ、これ好きだろ」 「なんで、いいよ」と俺は、両手を横に振り、いらないと意思表示をした。 「間違って、出しちゃってさあ。捨てるのもったいからさ」 「じゃあ、買うよ」と財布からコインを出そうとすると 「遠慮すんなって」  と葉山は、俺のデスクの上を一瞥すると、書類の隙間にほぼ強引に缶コーヒーを置き、自席へと戻って行った。 「ちょっと、おい」  何でだよ……  気味悪っ  あいつに親切にされるとそう思ってしまう。    まあ、もったいないし、せっくだから飲むか……  そう言い訳して、手に取った。    温かい……  今しがた買ったばかりだからか、両手にその温もりが伝わる。    すぐに蓋を開け  ゴグリ と一口。  優しい甘さが喉を温かく潤していく。    美味(うま)い……    視線を移した先に、ニッコリと微笑む横井さんと目が合った。  ところで、この缶コーヒー、あいつ、俺が好きだって何で知ってるんだ……?
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