第6章

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「あーっ、しもうた!」  葉山からもらったコーヒーを味わいながら取引先に送る資料をまとめていると、森山先輩の声に集中が途切れた。 「どうしたんですか?」  驚いたのは、俺だけじゃない。1係全員が森山先輩に声をかけた。 「主任、先日取引先に送った郵便にこの資料を入れ忘れてました」と森山先輩が机の引き出しから申し訳なさそうな顔で書類を出して見せた。 「先方さんに今日までに送らないといけなかったんです。あー午後の郵便じゃ間に合わへん」と頭を抱える森山先輩。 「送り先は?」 「俳優A所属の芸能プロダクションです」 「そうか、タクシーで間に合うな。とりあえず、森山さんは、先方さんに、その旨の電話連絡をしてください。何とか今日中に届けましょう」 「わかりました。主任、すみません」 「タクシーでこの書類届けてもらいたいんだが、手の空いている者いるか?」 「主任、俺行ってもいいですよ」と、俺はすぐに名乗りをあげた。 「沢口君、行ってくれるか」 「はい」 「沢ちゃん、ごめん。俺が行きたいところだけど、急ぎの仕事があって……」 「いいんです。気にしないでください、森山先輩。でも、早く気づいて良かったですね」 「ほんと、良かった。タクシーなら余裕で間に合うよ」と白鳥先輩が柱時計を見た。 「ただ、この時間帯って渋滞しやすいからね…… ほら、以前も、私、渋滞にハマっちゃったの覚えてる?」 「ああ、ハヤちゃんが、バイクで持って来てくれた時ね……」   確か、以前、横井さんがプレゼン資料を届けると言って渋滞にハマっていたのを思い出した。 「そう、そう」  横井さんの言葉に、先ほどまで明るかった皆の顔が、急に曇った。
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