第6章

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「あのとき、葉山君がいなかったら、多分、渋滞で間に合わなかったわ」 「横井さんが、機転を効かせて、葉山に頼んでくれたおかげですよ」と俺は、横井さんを立てようとした。 「違うのよ……。私が資料を持って出ようとすると、葉山君がこの時間帯は渋滞しやすいからって教えてくれたの。それで、『もし、二宮交差点手前の3キロあたりで渋滞したら自分に連絡ください。その時は、自分がバイクで代わりに届けるから』って言われていたの。やっぱり、葉山君の言う通りで、渋滞にハマって、タクシーは動かない。だから、葉山君に電話して、代わりに届けてもらったというわけ。あのままだったら、全然間に合わなかったわ」 「へー、ハヤちゃん、さっすが。やっぱり、ヒーローやな」 「そうなの。機転を効かせてくれたのは、葉山君ってこと」と横井さんが大きく頷いた。  そういうことだったのか。  あの時、まさか、葉山が率先して行動するわけがないと思っていたが、実はそうではなかった。  あの時、葉山が何か下心があると思っていた自分が恥ずかしくなった。 「じゃあ、今回もハヤちゃんに頼む?」 「でも、仕事忙しそうじゃないですか」と後ろを振り返ると、一係全員の視線が自分に集まるのを感じたのか、葉山が顔を上げいかにも「え?」という表情を浮かべてこちらを見た。  
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