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「よしっ、2係の主任と葉山君に頼んでみるね」溝口主任は決断したかのように、2係の島へ歩いて行った。
俺たち1係は、主任が2係の主任と葉山を交えて話している様子をじっと見ていた。
が、ものの2、3分で話しを終えて主任が戻って来る。
うまく話はついたのだろうか。
俺たちは、主任の表情を食い入るように見つめた。
「2係の主任に承諾を得たよ。葉山君も快く引き受けたくれた」
「助かったあ」
「良かったですね、森山先輩」
「じゃあ、沢口くん、葉山君と一緒によろしく!」
「ええっ! 俺、いや私もですか?」
「私もですかって、もちろんそうだよ。さっき、行ってもいいって言ってくれたよね」
「言いましたけど、葉山君が行くなら、私まで行かないでもいいんじゃないですか……」
「いくらなんでも、1係の取引先の対応まで全部葉山君一人に任せるわけにはいかないだろ」
「まあ、そうですけど……」
「あくまでも、葉山君は渋滞を避けて君を宛先の芸能プロダクションまで届ける役割だよ。芸能プロダクションに着いたら、君には、この書類を渡しながらきちんと今回のことについて対応してもらわないといけないからねえ」
「あ、でも、俺、いや私は、あいにくヘルメット持っていないんですよ……だから、無理ですよね。流石にノーヘルはダメですもん」
と、うまく言い訳を思いついたと思った。
葉山と二人で行くとなると、葉山のバイクに俺が、葉山と二人乗りするというわけで……。そしてもちろん、運転する葉山を当然俺が後ろから抱きしめるという形以外にはない。
それを想像して、どうしても避けたいという気持ちが先行した。
「ああ、それなら大丈夫。はい、これ」と横井さんがどこから調達したのか、都合よく黒いヘルメットを差し出した。
「ええっ! 横井さんそれどこから?」
「まあ、まあ、そんなことはどうでもいいじゃない。はい、行ってらっしゃい」と笑顔でぐいっとヘルメットを押し渡して来る。
やっぱ、行かないとだめ……?
一係全員の顔を見渡し眺めると、「行ってらっしゃい」という満面の笑み。
もう後に引けそうにない——。
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