第6章

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 2人無言のままエレベーターに乗り込んだ。    狭い空間に葉山と2人。  8階から地下駐車場へと向かう、その時間が長いこと——    階数ランプが動くのをじっと息を詰めて見つめる。    このシチュエーションは自分にとって不意打ちとしかいいようがない。  今まで葉山と2人っきりになるのを意図的に避けて来たからだ。    どうしてこいつを避けるようになったのか。    それは、新入社員のオリエンテーションに遡る。  初対面のくせにズケズケとモノを言ってくるところがまず苦手だと思った。  同期の飲み会でもそうだ。何かと言葉に棘があるような、それが自分にだけに向けられているような。  その印象が今もずっと大きく引きずっている。  思い過ごしかと考えたこともあったが、葉山に対していつもモヤモヤした気持ちが拭いきれないでいた。  それなのに、よりによってこの後、葉山のバイクに一緒に乗る羽目になるとは……  一生の不覚!  じりじりと長い沈黙が続く。    改まって2人っきりになると、何を話していいのかわからない。  葉山といる時はいつも他の誰かと一緒にいるようにしていたから、直接話さずに済んでいた……が、この避けられない状況。    無理に話す必要はないが、この空気感が苦痛だった。  こういう時、積極的に話すとおべっかを使っているみたいだし、当たり障りのない天候の話をするのも不自然な気がする。  その場しのぎの話題はだいたい墓穴を掘るか、つい意味のないことを口走ってしまうのがオチ。  それに、また嫌味の一つや二つ言われるかも……   「沢口、緊張しなくてもいいから」 「えっ!」  ぐるぐる考えていると、意外にも先に葉山が沈黙を破った。 「何だよ、緊張って」 「いや、別に……バイク乗るの初めてで緊張してんのかなって思ってさ」 「そんなことない」 「そっか、じゃあ、スピード出しても大丈夫だよな」 「お、おう」  ヘルメットを持つ手にぎゅっと力を込めるのと同時にエレベーターのドアがさっと開いた。
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