第6章

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 「こっち」と足速に歩く葉山の背を追って歩く。    大きなコンクリートの柱を越えると、大型バイクが目に飛び込んで来た。  黒い光沢感のある、それは、天井の灯りを反射して光を放ち、存在感があった。    葉山は、後部座席用のステップを出し、ヘルメットを被ると、長い足でバイクに跨った。  同時にエンジンの轟音(ごうおん)が鳴り響く。  「乗れよ」  「あ、うん」つい、見惚れてぼーっと突っ立っていた俺は、慌ててヘルメットを被り葉山の後ろに跨った。  どこを掴まえればいいのかわからず、前のベルトを握ってみたり、後部座席の脇や後方を手探りして、やっとしっくりくる部分を握った。 「そこじゃ危ないだろ」 「えっ?」 「俺の腹に両手の指を組んでちゃんとしがみつけ」 「うそだろ……」 「バイクを甘くみんなよ。ちゃんと掴まってないと飛ばされるぞ」その語気の強さに、しぶしぶ葉山の腹に腕を回して、両手指を交差して組んだ。 「そう、しっかり、捕まってろよ」 「う、うん」    葉山の背に頬が触れた。  瞬間、葉山の首筋からほのかな香りがした。    この香り……    来年堂々CM公開と共に、売り出される、新商品「フォーリン・ラバー」の香り  「男が惚れる男へ」—— 俺がつけたキャッチフレーズの香水  だから、すぐにわかった。  マーケティング課の社員だけが、発売前に試供品の使用を許されている。それだけ、今は、限定品の香水だ。    へえ、こいつ香水つけるんだ。  まあ、香水の会社で働く人間だから当然と言えば当然か。    ただ、自分は、似合わないと思ってつけるのを控えていた。たまに、オシャレをして出かける場合は、無難な香水を使っているくらいだ。    この香り、どこかで嗅いだ気がする……  仕事上何度も嗅いだ香りであることは間違いないのだが、不思議と気にかかった。    急に、ぐいっと体が前に強く引き寄せられる。  雄叫(おたけ)びを上げるようにバイクが発進した。    
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