259人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
「こっち」と足速に歩く葉山の背を追って歩く。
大きなコンクリートの柱を越えると、大型バイクが目に飛び込んで来た。
黒い光沢感のある、それは、天井の灯りを反射して光を放ち、存在感があった。
葉山は、後部座席用のステップを出し、ヘルメットを被ると、長い足でバイクに跨った。
同時にエンジンの轟音が鳴り響く。
「乗れよ」
「あ、うん」つい、見惚れてぼーっと突っ立っていた俺は、慌ててヘルメットを被り葉山の後ろに跨った。
どこを掴まえればいいのかわからず、前のベルトを握ってみたり、後部座席の脇や後方を手探りして、やっとしっくりくる部分を握った。
「そこじゃ危ないだろ」
「えっ?」
「俺の腹に両手の指を組んでちゃんとしがみつけ」
「うそだろ……」
「バイクを甘くみんなよ。ちゃんと掴まってないと飛ばされるぞ」その語気の強さに、しぶしぶ葉山の腹に腕を回して、両手指を交差して組んだ。
「そう、しっかり、捕まってろよ」
「う、うん」
葉山の背に頬が触れた。
瞬間、葉山の首筋からほのかな香りがした。
この香り……
来年堂々CM公開と共に、売り出される、新商品「フォーリン・ラバー」の香り
「男が惚れる男へ」—— 俺がつけたキャッチフレーズの香水
だから、すぐにわかった。
マーケティング課の社員だけが、発売前に試供品の使用を許されている。それだけ、今は、限定品の香水だ。
へえ、こいつ香水つけるんだ。
まあ、香水の会社で働く人間だから当然と言えば当然か。
ただ、自分は、似合わないと思ってつけるのを控えていた。たまに、オシャレをして出かける場合は、無難な香水を使っているくらいだ。
この香り、どこかで嗅いだ気がする……
仕事上何度も嗅いだ香りであることは間違いないのだが、不思議と気にかかった。
急に、ぐいっと体が前に強く引き寄せられる。
雄叫びを上げるようにバイクが発進した。
最初のコメントを投稿しよう!