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第8章
俺は、無我夢中で走った。
イルミネーションが眩い街並みの中を、とにかく走った。
あの時、俺を部屋まで運んだのは——
葉山だった!
酔っ払って騒ぎたてる人の群れ。
クリスマスもあと2時間ほどで日付が変わる。きっと、皆、名残惜しいのだろう。
その中を、ただひたすら、歩道を縫って走る。
優しくて、愛おしく重ねられた唇の影は
ぼやけておぼろげだった顔が、はっきり葉山に変わっていた。
なんだったんだ。
恥ずかしい!
葉山だったなんて!
どこかで嗅いだ香り……
それが、記憶の中を手繰り寄せた。
『男が惚れる男へ』……何度となく嗅いだ香水の香り。
酔って朦朧とした中、鼻を掠めたのは、葉山の匂いと、葉山がつけたあの香水だった。
全部、思い出した…… 全部!
俺が嫌いだったんじゃないのか!
会うたびに憎まれ口言っていたくせに。
なんで!
横井さんが言っていた、好きな子をいじめるやつ——
嘘だ。
葉山が俺を好きだって?
そんなの嘘に決まっている。
あいつのことだ。
きっと、イタズラしたんだ。
俺をからかったんだ!
自分だけが知らなかった。
悪戯半分にキスしたら、どんな態度を取るだろうって俺を試したんだ。
そして、きっと、陰では笑ってたんだ。
唇が忘れられなくて、何度も思い出して、そのたびに胸がむず痒くなって、熱くなって……。
何、感じてたんだ、俺。
恥ずかしい!
空想の中で、何度も唇を重ねた——
あの唇に俺は……
ばっかじゃねえの!
どこをどうやって走ったのかわからない。
ただ、とにかく走るしかなかった。
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