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「なんで!?」
思いもよらなかった。
どうして、葉山がここへ?
てっきり、BARで飲んでいると思っていた。
でも、どうしてここがわかったのだろう。
そうか、俺を、部屋まで運んだんだからアパートを知っていて当然か……
心臓の鼓動が高鳴る。
俺は、ブランコに座っていられなくて立ち上がった。
「気分が悪いって帰ったっていうから…… ここに、いたんだな……」
葉山は、息を切らしながら近づいて来る。
急いで走って来たのか、苦しそうに白い息を吐き出している。
心配して自分を追いかけて来てくれたのか?
そんなに、息が苦しくなるまで。
この寒空の下を……
「大丈夫か?」
「帰れよ!」
でも、俺は冷たく言い放った。
追いかけて来てくれたことは正直嬉しかったが、素直になれるはずがない。
優しくされても、はいそうですかって簡単には許せない。
俺の唇を奪ったやつ。
俺の心を弄んだやつ。
俺は、何度もあのキスを妄想して…… ずっと心が囚われて……
そんな自分が恥ずかしくて、葉山に笑われていたかと思うと、怒りの方が大きくなる。
「沢口……怒ってるのか?」
「ああ、怒ってるとも。おまえには、呆れたよ。どうせ、俺にイタズラして、馬鹿にして陰で嘲笑ってたんだろ」
「なんのことだよ」
「とぼけんなっ! 男のくせになんで、俺に……キ・スなんかしたんだっ!」
怒りに任せてぶちまけた。
語気も強くなった。
「っ! 沢口、やっぱり気づいてたんだな……ごめん」
なんで、すぐ謝るんだ。少しくらいは弁解しろよ!
あさっさりと認め、謝られ、拍子抜けした。
そのせいで、自分の感情の行き場がなくて、怒りが収まらない。
「やっぱりな……俺をイタズラしてたんだな。そして、陰で笑ってたんだな!」
「違う……」
「俺をからかって、面白かったか?」
「違う……」
「悪戯半分にキスしたら、どんな態度を取るだろうって俺を試したんだろ。楽しかったか?」
「違う!」
「それとも、俺が本気になってしまったのを見て、あれはゲームだったって言い出せなくなった?」
「沢口……」
俺は、感情の赴くまま、思いつくままに言葉をぶつけた。
葉山はずっと何も言い返さなかった。憎まれ口叩くいつもの葉山はそこにはいなかった。
言えば言うほど、自分の方が嫌なやつになっていくようで、自分にも腹が立った。
言いたいことを言っても、気分は全然晴れない。
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