第8章

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「なんで!?」  思いもよらなかった。  どうして、葉山がここへ?  てっきり、BARで飲んでいると思っていた。    でも、どうしてここがわかったのだろう。    そうか、俺を、部屋まで運んだんだからアパートを知っていて当然か……  心臓の鼓動が高鳴る。  俺は、ブランコに座っていられなくて立ち上がった。 「気分が悪いって帰ったっていうから…… ここに、いたんだな……」  葉山は、息を切らしながら近づいて来る。  急いで走って来たのか、苦しそうに白い息を吐き出している。  心配して自分を追いかけて来てくれたのか?  そんなに、息が苦しくなるまで。  この寒空の下を…… 「大丈夫か?」 「帰れよ!」  でも、俺は冷たく言い放った。  追いかけて来てくれたことは正直嬉しかったが、素直になれるはずがない。  優しくされても、はいそうですかって簡単には許せない。  俺の唇を奪ったやつ。  俺の心を(もてあそ)んだやつ。  俺は、何度もあのキスを妄想して…… ずっと心が囚われて……  そんな自分が恥ずかしくて、葉山に笑われていたかと思うと、怒りの方が大きくなる。 「沢口……怒ってるのか?」 「ああ、怒ってるとも。おまえには、呆れたよ。どうせ、俺にイタズラして、馬鹿にして陰で嘲笑(あざわら)ってたんだろ」 「なんのことだよ」 「とぼけんなっ! 男のくせになんで、俺に……キ・スなんかしたんだっ!」    怒りに任せてぶちまけた。  語気も強くなった。   「っ! 沢口、やっぱり気づいてたんだな……ごめん」    なんで、すぐ謝るんだ。少しくらいは弁解しろよ!  あさっさりと認め、謝られ、拍子抜けした。  そのせいで、自分の感情の行き場がなくて、怒りが収まらない。   「やっぱりな……俺をイタズラしてたんだな。そして、陰で笑ってたんだな!」 「違う……」 「俺をからかって、面白かったか?」 「違う……」 「悪戯半分にキスしたら、どんな態度を取るだろうって俺を試したんだろ。楽しかったか?」 「違う!」 「それとも、俺が本気になってしまったのを見て、あれはゲームだったって言い出せなくなった?」 「沢口……」  俺は、感情の赴くまま、思いつくままに言葉をぶつけた。  葉山はずっと何も言い返さなかった。憎まれ口叩くいつもの葉山はそこにはいなかった。    言えば言うほど、自分の方が嫌なやつになっていくようで、自分にも腹が立った。  言いたいことを言っても、気分は全然晴れない。
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