第8章

5/15

259人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
 二人の間を、雪がちらりと舞った気がした。   雪……?  と少しだけ気を取られた。 「俺は……おまえのことが……好きなんだ…… だから……」    今、何て言った……?    聞き慣れない言葉は、耳をさらりと通り過ぎて、寒空に消えていった。    聞き間違いじゃなければ、今俺を好きって言った?  心臓は激しい速さで鼓動し、頭の中で大音量を鳴らしている。   「今、よく聞こえなかった……」    もう一度はっきりと聞きたい。  ちゃんと聞きたい。  葉山の口からもう一度——  誰かに言われたいとずっと願っていた言葉。  葉山は、間を置いてから、真っ直ぐに俺の瞳を見た。先ほどよりも強い意思みたいなものを感じる。 「だから……俺は、おまえのことが、好き。ずっと好きだった!」  心が震えた。  力強くて、でも、温かくて優しい響きだった。  胸の奥から熱い何かが沸き起こり、体全身に染み渡っていく。  『好き』という言葉はこんなにも、切なくて、すぐ逃げてしまいそうなくらい(はかな)くて、なのに、凍えた心を熱く焦がす。 「だから、つい…… ごめん。気持ち悪いよな……俺のこと」  そうじゃない。  え?  俺は、葉山のことを気持ち悪いとは思っていない。    だって、ずっと、あのキスを俺は…… 「じゃあ、なんで……!」  熱が体を巡り、目頭まで迫り上がる。  雫が熱く瞳を覆って、次第に葉山がぼやけていく。 「なんで、俺にイジワルしてたんだよ……」 「イジワル?」 「ああ……、おまえ、今まで俺には優しくなかったじゃないか!」 「そうか、そうかもな……。俺、どうもさ、素直になれなくてさ…… だから、そんな自分にいつも落ち込んでた」
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

259人が本棚に入れています
本棚に追加