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衝動でついキスをしてしまった……
素直になれなくて落ち込んでいた。
葉山の言葉ひとつひとつが、ズキンと胸の奥を刺した。
そんなふうに自分のことで悩んでいたとは全く知らなかった。
目の前の葉山の肩が寒そうに見える。
自分の気持ちさえ理解するのが難しいのに、人の心はもっと難解だ。
なのに、俺は、心を閉ざしてこいつのことを知ろうとしなかった。
むしろ、自分が見ていた葉山は、うわべだけの葉山で、それをイヤなヤツだと最初から決めつけて毛嫌いして、避けていたんだから。
入社してからこの2年、俺たちはいったい何してたんだろう……
「……バカヤロ……」
その言葉は、自分に対して言ったのかもしれない。
雫がすっと頬を伝って流れて、冷えていく。
俺は、いったいどうして泣いているんだろう。
複雑な気持ちが絡み合って、自分でも何がなんだかわからない。
でも、わかっているのは——
「おまえにずっと嫌われてると思ってたんだからな…… 」
目の前の男が、今、たまらなく愛おしいということだけ……
「沢口! ごめん、ほんと、ごめん」
自分の両肩にそっと置かれた葉山の手のひらの温かさが伝わる。俺は、泣き顔を隠すように葉山の広い胸に、自然に額を傾けた。
「沢口!? 俺のこと…… 気持ち悪くないのか?」
「べつに……」
「あの……いいってこと……?」
「そんなこと、いまさら聞くなよ……」
「そ、そうだよな……」
自分から嫌がらずに葉山の胸におさまっているのが信じられなかったのだろう。背中へと滑らす葉山の手が妙にぎこちない。
あの時は、聞かずにキスしたくせに……
「沢口……好き、好きだ」
回された腕に強く抱きしめられ、胸の奥が熱く昂る。
葉山の言葉は、切ないほど鼓膜を溶かし、胸の奥へと刻み込まれた。
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