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「あ、ちょっと、まっ……あっ」
不意に首筋に葉山の唇が滑り、一瞬ヒヤリとして、ゾクっと体が震えた。帰ってくるなりコートを脱がずに、二人玄関先で立ったまま、暖房も入れてない。
「だ、暖房つけなきゃ」
そう言いながら葉山をやっとのことで押し剥がし、リモコンを探す。その後を、まるで子供が母親を追いかけるように葉山が抱きつこうとする。
「ちょ、待って……」
逃れながらやっとリモコンを見つけ出し、スイッチを入れたら、すぐにまた覆い被さるように後ろから抱きしめられた。
「もう、おまえって……」
「沢口……好き……」
その言葉は、反則だ。
がっつき過ぎ……とでも言おうと思った。
でも、耳元でそんなこと言われると、文句の言葉は消えてしまう。
今まで、こんなふうに言われたことがないからだろうか。
「好き」という言葉は、すごい言葉だと思う。
真っ直ぐに言われるとなんでも許したくなる強力ワードだ。
胸がこんなにもときめいて、熱くなる。
何度でも言って欲しい。
それが、好きな相手なら尚更……
そうか——
俺も葉山が好き……なんだ。
強く抱きしめられて温かさが心地よくて
キスされても全然嫌じゃなくて
ずっと、胸がときめきっぱなし。
その意味が、今わかった瞬間だった。
「葉山、コート、脱ぐから……」
「ああ……」
その間、葉山の腕が解かれ、後ろから葉山が見ていると思うと緊張気味にコートを脱ぎ、コート掛けにかけた。
「おまえも脱げよ……」
「うん」
後ろを振り返り、葉山からコートを受け取ろうとすると、葉山は即座にソファーに投げかけ、また抱きついてきた。
「沢口……」
「ん……」
2度目の口づけは、待ち遠しい思いが溢れた。
自分からも求め、唇を重ね合う。葉山もそれに気づいたのか、激しさを増して、口づけを求めてくる。
熱く吐息を絡め合う。
互いの気持ちが、ひとつになった気がした。
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