第1章

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 会議が一段落し、俺は、一息つこうと休憩コーナーに向かった。  休憩時に社員同士で談笑したり、お昼休みには弁当を食べたり、社員の憩い場所だ。  本社ビルの各階に設けられ、自販機やテーブル、椅子も置かれてあり、社員への福利厚生が充実している。  自分のオフィスは最上階の8階。  休憩コーナーの明るい大きな窓からビル街を眺めながらホットコーヒーを飲むのが好きだ。  まずっ……   入った途端、先客と目が合い、気持ちが萎えた。  同じ課の2係に所属する葉山翔太(はやましょうた)だった。 「俺がいると、入りにくい?」 「べつに……」  何で、いっつも、こいつはそういう言い方してくるかな……。  思っていてもちゃんとした社会人ならそんなことは言わないっつの。    どうもこいつだけは苦手だった。  会えば必ずひとつやふたつ、言わなくてもいいことをずけずけと言ってくる。  ふたりっきりでは会いたくない相手。  誰とでも打ち解けて話せるのが唯一得意の自分でも、何考えているのかわからない葉山とだけは、今だに慣れない。  同期入社でなければ絶対に付き合いたくない。  たまに同期仲間数名で飲みに行くことがあるが、葉山とは離れて座り、絡まないようにしている。    それなのに、総務から葉山が異動してきてよりにもよって今年から同じ課になるとはついてない。  こんなふうにふたりっきりで会ってしまうニアミスが多くなるからだ。    せっかく、ここでゆっくりしたかったが、残念。部屋で飲むか……  俺は、なるべく話しかけるなオーラを出しながら、自販機からホットコーヒーを出した。   「沢口、『男が惚れる男へ』って、いいキャッチフレーズだね。ところで、おまえさ、男が好きなの?」 「なんっ!」  振り返ると、葉山の瞳に挑戦的な笑みが見えた。  言い返したいのを抑え、俺は、熱いのも忘れるほど缶コーヒーをギュッと握りしめた。  
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