第9章

3/6

259人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
 エレベーターが開いた途端、目の前に黄金のシャワーのような空間が現れた。東京タワーの最上展望台、トップデッキは、250メートルの高さだ。   「すげー!」 「ほんとすげー!」  360度に広がる光が散りばめられた世界に、一瞬で引き込まれる。  俺は、童心に返ったように浮き足だった。葉山も目を輝かせて、同じようにテンションが上がっているようだ。 「葉山、ほら、向こうだよな、本社ビルがあるのは」 「そうだな。おまえのアパートはあのあたりだろ」  肩を寄り添い、俺のアパートがある方向を指差した。  葉山の温かな体温が、心を優しく満たす。    いつか、自分に恋人ができたら行きたいと思っていたこの場所に今、いるんだ!    俺たちって、恋人同士に見えるのだろうか…… 「葉山のアパートはどの辺?」 「こっちだよ……」  手を握られ、左側へと移動する。  いつもそうしていたみたいに、握られた手がとても自然だった。    そう見えても、全然構わない……。  なぜって、それは——  少しずつ歩きながら、階下に広がる360度の夜景の美しさを堪能する。  六本木ヒルズの派手な夜景  横浜方面に伸びる光の川  東京タワーから見えるまばゆい光の海に心が揺さぶられる。    でも、それは、きっと、誰と見ているかで違うのだと思う。  その誰かが今、叶ったのだ。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

259人が本棚に入れています
本棚に追加