第2章

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 顔を洗い、鏡を見てシャキッと頬を2、3回叩き気合いを入れる。    あと、少しで完成だ。    俺は、明日みんなに見てもらうつもりでいた。  だから、どうしても完成させて帰りたいと思っていた。 「あ、主任、お疲れ様です」  トイレから出ると、廊下で主任と鉢合わせた。主任は丁度帰るところだった。 「沢口君、私も先に失礼するよ」 「はい、お疲れ様です」 「沢口君は、まだ、残るの?」 「あと少しで帰りますので」 「そうか、あまり無理しないでくれよ」 「はい、大丈夫です」 「そうか、じゃあ、お先に」 「お疲れ様でした」  主任の背中を見送り、足早に執務室に戻った。    部屋に入ると、誰もいない。シーンと静まり返っている。  つい先ほどまで明るかったマーケティング課のフロアーの照明が落とされ、1係のデスク付近だけが明かりで浮き上がっている。  一人だとちょっと寂しいかも……  この時間まで残業でひとりになるのは初めてなせいかもしれない。  それに、11月ともなると広い部屋がよけいにヒンヤリとする。  季節がそう思わせるのだろうか。    たった今シャキッと入れたやる気が萎みそうになるのを、よしっと気合いを入れる。 「うん?」  デスクに着くと、パソコンの近くに缶コーヒーが置いてあるのに気づいた。いつも自分が好んで飲んでいるホットコーヒー。 「温かい……」  今しがた自販機で買ったばかりのようだ。自分が席を外している間に誰かが置いたようだ。 「もしかして、主任かも」    外の夜景が差し込んで、部屋がほのかに明るく見える。  喉に落ちていくホットコーヒーがゆっくりと気持ちを温めた。  
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