宅配

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 インターフォンは毎度変わった音を鳴らすくせに、大音響で流れるこのオペラはいつも同じだ。  一度、なぜこの曲なのか聞いたときの阿倍野の言い分は、阿倍野らしいと納得できるものだった。  だが、あくまで彼らしいなので、それと大音響によってわかっていてもたまにビクつく身体はどうしようもなく、止めてくれるならやめてほしい。  そして、それはあくまでも成の要望なので、それは受け入れてもらえる種類のものではないし、現状を鑑みるにしばらくはこのままではないかと成は思っていた。 「ちわーっす。相変わらず、扉重いし変な音だし。どうにかなんないんすか?」  奥の部屋のドアを開けたら、目の前には阿倍野が氷橋を腕の中に閉じ込めて、(たわむ)れている姿が目に入る。  今日の衣装はベトナムのアオザイだ。  水色と金が散りばめられ、氷橋の持つ雰囲気と非常にマッチしていた。  阿倍野の方は紺と金で作られていた。男性用もあるのだと、成は初め知る。
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