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そしてシネマの中で自慢の髪を褒められ、バレッタを貰った女の光はやたら嬉しそうに笑っていて…。
それが堪らなく嫌だった。
なのに、なぜか俺はそれ以来髪を切ることに今一歩踏み出せずにいる。
再び眠ることも出来ず気が付くと東の空は白けて来ていた。
俺はいつもの一日を始めるべく起きだす。
いつもの一日とは俺がこの家に来て以来、四年間続けた来た毎日のことだ。
俺が女だろうと男だろうと岡本家での役割は変わらない。
そもそも俺は光之介と光希を引き取った先代夫婦が亡くなった後、身体の弱い光希に代わり家事をするために引き取られたようなものなのである。
家政婦かバイトを雇おうかと言い出した光之介に、それなら家族を増やそうと光希が提案したらしい。
勿論学校にも行かせてくれた。
どうしても学ランを着たくないと駄々をこねた当時の俺、女の光のために二人は授業料の高い県内唯一の私服制私立中学へ通わせてくれた。
でも学校という集団組織は俺にとってかなり居辛く、高校へは進学しなかった。
学ラン、部活、男同士のくだらない会話や遊び。
今となっては夢のまた夢。
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