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チハルと名乗った子供はどう見ても十五歳前後にしかみえない。手足が細く、透けるような白い肌が黒目がちな目と色鮮やかな唇を引き立てていた。
「頼りない担当かもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします」
「あ、いや。こちらこそよろしく」
「じゃあ、あとのことは彼女から説明を受けてくれ。私はほかに仕事があるのでね」
手を振って去っていくアガノの背中を見送って、ため息を漏らした。わけのわからないことばかりだ。力なく首を左右に振った俺の前にチハルが立つ。
「あの、キド=ケイスケさん。まずは施設の中を軽く歩きましょう」
おどおどした様子のチハルに頷き、俺は立ち上がった。ここでじっとしていても事態は一向に進みそうにない。
「わかった。それと俺のことはケイスケでいいよ」
「は、はい。ケイスケさん。それではこちらへ」
宇宙船を思わせる扉をくぐる。大きなガラスばりの通路に出た。天井も壁も曲線を描いており、まるで大きな試験管のなかを歩いているかのような道である。
「すげぇ……。ほんとにここ、未来かも」
透明な壁の向こうには外の世界が広がっていた。信じられないことに、そこでは当然のように車や列車が空を行きかい、空中にはいたるところで赤、青、黄色に輝く球体が浮かんでいた。
「チハル、あれは?」
「立体信号です。平成時代にはなかったものですね」
「いや、そもそも車が空を飛んでいなかったから。マジかよこれ」
本当に未来に来てしまったのかもしれない。外に広がる光景を見て、俺は初めてその思いを実感した。目の前では、アニメや映画ですら見たことがないような文明がそこかしこにうごめいている。
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