平成クロマニヨン

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 施設の中をぐるりと案内された。この建物はどこもかしこもガラスか、または俺が名前もしらないような透明な外壁で覆われており、巨大なボトルシップを連想させる。すれ違う人間はみな小柄で、手足が細く色白であった。 「なんでここにいる人たちは皆、背が低くってあんなに細いんだ?」  一通り施設の中を案内され、休憩用の椅子に腰かけたところでチハルに問いかけた。 「特におかしなことではありません。彼らは標準的な現代人の身長・体重を維持しています。健康センターによってすべて管理されているので、皆似たような体型になるのです」 「あれが未来の標準体型か」  横を歩いていった折れてしまいそうな若い男をちらりと見て、呟いた。 「第二次文明開化以降、人間の身長や体重は減少傾向にありますので」 「第二次、文明開化?」 「インターネットやAI、それに文明テクノロジーの底上げによる飛躍的な科学技術の進歩のことを指します。おおよそ西暦2000年前後から、2100年ごろまでに見られる現象です」 「あ、そう。俺の時代じゃあいつか人間はAIに仕事を奪われるなんて話もあっただけどな。そういうことは起きなかったのか?」 「あり得ません。AIは確かに進歩しましたが、干渉できる権限を規制されていますので。今では単純作業を管理するために使われるくらいでしょう」 「ふうん」  適当に相槌をうって、休憩室に浮かび上がったスクリーンに目を向ける。そこでは機械同士がボールを奪い合い、高い場所に設置されたリング目がけてボールを放り投げていた。 「メカ・バスケットボールです。今ボールを持ったのはエースパイロットのスズキが操縦するメガロ03後期型です」 「操縦ねぇ」  機械が豪快にリングにダンクシュートを叩き込むと、コックピットを開いて痩せぎすの操縦士が手を振った。未来の世界ではスポーツさえ機械に乗って行うらしい。  施設の説明が終わるころには日が暮れて、外には夜の帳がおりはじめていた。もっともあちこちで輝くライトがその闇を無神経に切り裂いては空を走り回っており、夜の静寂さとは無縁の世界であった。
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