第3話 弱肉強食な現実

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……落選しろ、落選しろ……  と願わずにはいられなかった。人を呪わば穴二つ、と言うが、この場合は正当であろう。思うだけくらい。ただ、彼女が書いたから人気が出たし、受賞も出来たのだ。自分が書いたら、日陰のままで終わったろう。  ここにも実力の差が、ひいては己の才能の無さをまざまざと見せつけられる。 「姉ちゃん!どういう事だよ???」  ノックもせずに物凄い勢いで部屋に入って来る尚樹。憤慨したのは弟だった。 「あの作品二つ、削除だか非公開にしたのはそう言う事だったのかよ?訴えても良いレベルじゃねぇか!!!こいつ、リアルで知ってるヤツだろ?」  弟は真っ赤になって怒っている。姉の為に。 「いきなり読めなくなったから、何かあったんだろうな、と思っていたら……」  弟は少し落ち着いて来たようだ。 「これはね。気を許し過ぎてペラペラしゃべっちゃったお姉ちゃんが悪いの。その時は二人だけだったし、それを証明してくれる人は居ないんだよ。それに、この人だから、賞を取れたんだよ。お姉ちゃんの作品、読んでくれるの尚樹だけだもん。仕方無いんだよ。実力社会ってこんなもんでしょ」  と有栖は笑って見せた。 「俺、姉ちゃんの作品良いと思う。皆見る目が無いだけだって!」  尚樹の目に、涙が溢れ出す。 ……泣いてくれるんだ?こんな何の取り柄も無い駄作な姉ちゃんなのに……  気付けば有栖の目にも、涙が溢れていた。 「だからね、良いんだ。このままで」  有栖はそう言いながら弟に近づき、精いっぱい背伸びをして右手を上に伸ばす。そして弟の頭を撫でようとした…が届かず。尚樹は中腰になって頭を下げる。  身長差が歴然になって以来、姉に頭を撫でて欲しい時にやる尚樹の仕草だ。 「有難う、尚樹……」  そう言って、静かに頭を撫でた。 「こんなのって、ねえよ…こんなの…」  尚樹はしばらく泣き続けた。
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