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熱い……。彼の鳶色の瞳は、まるで炎を宿したように熱く見つめる。
「充(みつる)先輩…」
私はその名を呟いた。
彼の名は加藤充。東(あずま)高校の生徒会長だ。正直、彼がどうして私なんかを気に入ってくれたのか分からない。
切っ掛けは、たまたま職員室前を通った時、先生からプリント類を教室に運ぶよう頼まれた。
「重いし嵩張るから誰か友達連れて来て運んでね」
と言われたのに、友達を呼びに教室に戻るのが面倒で。いっぺんに済まそうとヨロヨロしながら運んでいた。
「あ!」
バランスを崩してプリントが廊下に散乱してしまう。
「大丈夫かい?」
そう言って駆け寄り、散乱したプリントを拾ってくれた上に、教室まで運ぶのを手伝って下さった事のだ。小麦色の肌に彫の深い顔立ち。怜悧な輝きを宿す鳶色の瞳。長身でスレンダーな彼。
……素敵……
一目でときめいてしまった。けれども彼は、文武両道にて見目麗しき生徒会長。彼を狙う女性はあまたいて。
「俺では、嫌か?」
切なそうに、彼は私を見つめる。
……まさか!嫌な訳ない……
私は首を横に振った。
~・~・~・~・~・~
…トントントン…
不意に鳴り響くドアの音。
「姉ちゃん、夕飯出来たって!」
続いて響く我が弟の声。一気に現実に帰る。夢の時間は、一旦終わりを告げた。
あれから有栖は部活から帰宅すると、すぐに入浴を済ませパソコンを立ち上げた。
そして『アスハキミガスター』を開く。
これからしばし、夢の世界へと浸るのだ。
今日は、Loveストーリー短編集を書こう。モデルは昼間皆が騒いでいた生徒会長だ。
……こんな風にして、
自作の小説の中での有栖は無敵のヒロインだった。
容姿端麗、文武両道、モテモテ。自由気儘に、物語の世界に浸れた。
……アクセスは、今日も弟だけだったけれど……
それももう、気にならない。だって自作の小説の中では「無敵のアリス」なのだから。
キャラも、シチュエーションも自らが思うままだ。
夕飯を済ませたら、寝る前にまた続きを書こう。
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