第2話 無敵のアリス

4/4
前へ
/113ページ
次へ
熱い……。彼の鳶色の瞳は、まるで炎を宿したように熱く見つめる。 「充(みつる)先輩…」  私はその名を呟いた。 彼の名は加藤充。東(あずま)高校の生徒会長だ。正直、彼がどうして私なんかを気に入ってくれたのか分からない。  切っ掛けは、たまたま職員室前を通った時、先生からプリント類を教室に運ぶよう頼まれた。 「重いし嵩張るから誰か友達連れて来て運んでね」  と言われたのに、友達を呼びに教室に戻るのが面倒で。いっぺんに済まそうとヨロヨロしながら運んでいた。 「あ!」  バランスを崩してプリントが廊下に散乱してしまう。 「大丈夫かい?」  そう言って駆け寄り、散乱したプリントを拾ってくれた上に、教室まで運ぶのを手伝って下さった事のだ。小麦色の肌に彫の深い顔立ち。怜悧な輝きを宿す鳶色の瞳。長身でスレンダーな彼。 ……素敵……  一目でときめいてしまった。けれども彼は、文武両道にて見目麗しき生徒会長。彼を狙う女性はあまたいて。 「俺では、嫌か?」  切なそうに、彼は私を見つめる。 ……まさか!嫌な訳ない……  私は首を横に振った。 ~・~・~・~・~・~ …トントントン…  不意に鳴り響くドアの音。 「姉ちゃん、夕飯出来たって!」  続いて響く我が弟の声。一気に現実に帰る。夢の時間は、一旦終わりを告げた。  あれから有栖は部活から帰宅すると、すぐに入浴を済ませパソコンを立ち上げた。 そして『アスハキミガスター』を開く。  これからしばし、夢の世界へと浸るのだ。 今日は、Loveストーリー短編集を書こう。モデルは昼間皆が騒いでいた生徒会長だ。 ……こんな風にして、  自作の小説の中での有栖は無敵のヒロインだった。 容姿端麗、文武両道、モテモテ。自由気儘に、物語の世界に浸れた。 ……アクセスは、今日も弟だけだったけれど……  それももう、気にならない。だって自作の小説の中では「無敵のアリス」なのだから。 キャラも、シチュエーションも自らが思うままだ。  夕飯を済ませたら、寝る前にまた続きを書こう。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加