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「掛け算は教えてやらねえけどさ。その代わり、話してやるよ」
草抜きを終えて一休みしていた拓海は、海斗に座るよう手招きをした。
話、と聞いて海斗の顔が明るくなる。
拓海は話をするのが上手い。
その場で考えた物語は、聞いている人を魅了する。
海斗は拓海の世界に引き込まれるのが好きだった。
彼の話を聞いていると、まるで自分が主人公になったような気持ちになれるのだ。
なぜって、拓海は必ず聞いている人を主人公にし、周りの人間を登場人物にするからだ。
目を輝かせて拓海の隣に座る海斗。
拓海はいつもの癖で、咳払いをしてから今日の物語を話してくれた。
「あるところに、『カイト』っていう男の子がいて―――……」
「海斗、ご飯食べるわよ」
「もうちょっとだけ待って」
その日の夜、海斗はリビングで机に向かっていた。
母が手元を覗き込むと、大きな画用紙にクレヨンで絵を書いていた。
線で区切られた枠の中にそれぞれ別の絵が描いてある。
絵、というより、漫画に近かった。
どの枠にも、同じ風貌の少年が描かれている。
「それ、海斗?」
「うん。今日拓海の話に出てきたんだ。『カイト』っていう賢い男の子が泥棒をやっつけて、大切なものを取り返す話だよ」
「へぇ。お母さんにも今度聞かせてくれる?」
「うん!」
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