第1章:海斗・拓海 編

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「掛け算は教えてやらねえけどさ。その代わり、話してやるよ」 草抜きを終えて一休みしていた拓海は、海斗に座るよう手招きをした。 話、と聞いて海斗の顔が明るくなる。 拓海は話をするのが上手い。 その場で考えた物語は、聞いている人を魅了する。 海斗は拓海の世界に引き込まれるのが好きだった。 彼の話を聞いていると、まるで自分が主人公になったような気持ちになれるのだ。 なぜって、拓海は必ず聞いている人を主人公にし、周りの人間を登場人物にするからだ。 目を輝かせて拓海の隣に座る海斗。 拓海はいつもの癖で、咳払いをしてから今日の物語を話してくれた。 「あるところに、『カイト』っていう男の子がいて―――……」 「海斗、ご飯食べるわよ」 「もうちょっとだけ待って」 その日の夜、海斗はリビングで机に向かっていた。 母が手元を覗き込むと、大きな画用紙にクレヨンで絵を書いていた。 線で区切られた枠の中にそれぞれ別の絵が描いてある。 絵、というより、漫画に近かった。 どの枠にも、同じ風貌の少年が描かれている。 「それ、海斗?」 「うん。今日拓海の話に出てきたんだ。『カイト』っていう賢い男の子が泥棒をやっつけて、大切なものを取り返す話だよ」 「へぇ。お母さんにも今度聞かせてくれる?」 「うん!」
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