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「すまない。ちょっと、忙しくなってきたみたいで、すぐ戻らないといけなくなった」
少女に伝えると、彼女は少し残念そうに肩をすくめて笑う。
そんな彼女に、持ってきた冊子を渡した。
「俺の描いたものが土産になるかは分からないが、話のネタくらいにはなるだろう」
驚いたように冊子を見つめる少女が慌てたようにメモ帳を海斗につき出す。
『ここに寄る予定はなかったのでお金を持っていません』
文面を見て、また笑みが溢れる。
「いいんだ。俺は趣味でこれを描いていて、利益は求めていないから。俺の作品で誰かが楽しんでくれるなら、それでいい」
嬉しそうに微笑む少女が、冊子とメモ帳を交換する。
メモ帳をポケットにしまいながら、海斗は彼女に笑いかけた。
「楽しかったよ。ありがとう」
これは、リップサービスなんかじゃない。
本当に心からそう思えた。
彼女はふわりと笑い、また手を動かした。
まだ言いたいことがあっただろうか。
もう一度メモ帳を取り出そうと、ポケットに手を入れた時だった。
「っ……あ、り……と」
少し掠れた、しかし透き通るような声が聞こえた。
何だ。
ちゃんと、話せるじゃないか。
「……いい声だな」
思ったままを言葉にし、その場を後にした。
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