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「悪い、遅くなった」
ブースに戻り、友人に謝ると、彼はブツブツと文句を言いながら海斗のブースから退いた。
どうやら自分のブースの客が一段落ついたところで一旦ブースを閉め、海斗のブースに対応してくれていたようだ。
海斗は礼を伝え、席に戻る。
10分も経たないうちに、手元に並べられた冊子がなくなった。
「……」
「海斗?何してるんだよ。早く次の分出さないと、」
「いや……」
同人誌作家として、デビュー初日に、まさかこんなに売れるなんて想像もしていなかった。
怪訝そうな友人に、空の箱を見せる。
それから、列に並ぶ客に頭を下げた。
「すみません。今ので、売り切れです。本当に申し訳ありません」
残念そうな表情を浮かべ、客が散らばる。
こんなことになるなら、もっと多く印刷しておけばよかった。
絶対に余るだろうと予想して、100部しか印刷を頼まなかったのが仇になった。
しかし、何故こんなに一気に売れたのだろう。
序盤に訪れた客は皆友人のおこぼれで、情けで冊子を手に取る人がほとんどだったのに。
海斗が笑顔で呼び寄せた女性。
あの女性が帰ってから、急に売り上げが伸びた。
考えながらブースの片付けをしていると、不意に友人がスマートフォンを見て声を上げた。
「何をしているんだ。お前も早く片付け、」
「ちょ、海斗!これ!」
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