第1章:海斗・拓海 編

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「悪い、遅くなった」 ブースに戻り、友人に謝ると、彼はブツブツと文句を言いながら海斗のブースから退いた。 どうやら自分のブースの客が一段落ついたところで一旦ブースを閉め、海斗のブースに対応してくれていたようだ。 海斗は礼を伝え、席に戻る。 10分も経たないうちに、手元に並べられた冊子がなくなった。 「……」 「海斗?何してるんだよ。早く次の分出さないと、」 「いや……」 同人誌作家として、デビュー初日に、まさかこんなに売れるなんて想像もしていなかった。 怪訝そうな友人に、空の箱を見せる。 それから、列に並ぶ客に頭を下げた。 「すみません。今ので、売り切れです。本当に申し訳ありません」 残念そうな表情を浮かべ、客が散らばる。 こんなことになるなら、もっと多く印刷しておけばよかった。 絶対に余るだろうと予想して、100部しか印刷を頼まなかったのが仇になった。 しかし、何故こんなに一気に売れたのだろう。 序盤に訪れた客は皆友人のおこぼれで、情けで冊子を手に取る人がほとんどだったのに。 海斗が笑顔で呼び寄せた女性。 あの女性が帰ってから、急に売り上げが伸びた。 考えながらブースの片付けをしていると、不意に友人がスマートフォンを見て声を上げた。 「何をしているんだ。お前も早く片付け、」 「ちょ、海斗!これ!」
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