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百合乃に復讐することだけを考えながら過ごす時間は、あっという間に通り過ぎていく。
新年度を迎えた春には、卒業した先輩に代わって男勝りな新入生が学生自治会の書記長に就任し、初のイベント参加から頻繁にイベントに参加するようになると海斗の評判は更に広がり、いつの間にやらファンクラブなるものが出来上がっていた。
相変わらず百合乃は海斗の隣で笑い、海斗と付き合っていることを周りに自慢しているようだ。
おかげで彼女の本性を知っている知り合いからすぐに別れるべきだと口うるさく言われる。
海斗の計画が百合乃の耳に届かないよう、愛しの彼女を真っ直ぐに想う彼氏を演じるのも、正直鬱陶しくなってきた。
そんな頃、拓海の方にも変化があった。
ずっと、誰かに認めて欲しくて出版社に小説を送り続けていた拓海だったが、ある夜突然、思いついたように海斗に話を振ってきた。
「自費出版、してみようと思うんだ」
「自費出版?」
「出版社から出すより金はかかるし、儲かる保証もねえけど。出版社の人間が求めるような、綺麗で感動的なハッピーエンドの物語じゃなく、もっと俺が思うように、思ったままに書いてみてえんだ」
そう言って、拓海は紙の束を海斗に手渡した。
今まで彼が書いていた作品にも何度か目を通したことがあるが、出版社から求められるままに書いた物語はどれも、構成は完璧なのに内容が薄く、才能を無駄遣いしているように見えた。
しかし、新しく渡された小説は違った。
物語の中に引き込まれ、時間を忘れて読み切ってしまった。
その理由は簡単だった。
これは、エッセイに近い。
主人公の両親が離婚し、数年後に再婚した母は主人公と半分だけ血のつながった弟を出産。
邪魔者扱いをされ、虐待を受けながら「これは自分が存在していることへの罰だ」と考える。
小説の中に登場する主人公は、過去の拓海そのものだった。
実体験を元にしているため、虐待を受ける場面の描写は驚く程リアルだった。
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