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ただ文章を追っているだけなのに、少年が傷つけられるのと同じ場所が痛むように錯覚してしまう。
そうして読み終わるといてもたってもいられず、時間は既に日を跨いでいることにも気づかずに部屋を飛び出した。
風呂から上がり寝支度を始めている拓海の部屋へ飛び込むと、一瞬驚きの表情を見せた親友はふ、と頬の筋肉を緩めた。
「なんつー顔してんだ」
「……どんな顔してる?」
今自分がどんな顔をしているのかわからない。
ただ、鼓動が煩いほど跳ね上がっていて、落ち着こうにも息が上がって呼吸も上手くできない。
こんなに胸がざわついたことなんて、久しくなかった。
恐らく幼少時代、拓海が引っ越す前が最後だ。
この感情は、そう、すごく
「興奮してる顔」
「新作、読んだ。今までのどれよりも、拓海らしいというか……才能が、フルに活かされてる感じがした」
「そりゃどうも」
「それで」
そう。
こんな感想を言うために来たのではない。
もっと、拓海に聞いて欲しいことがあって。
荒れる呼吸を落ち着かせ、拓海の思いが綴られた原稿を眺める。
握り締めた手からはどうしても力が抜けなかった。
「この本の表紙を描きたい」
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