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拓海が聞かせてくれる話を、家に帰って漫画やイラストに起こすのが、幼少時代の趣味だった。
歳を重ねると、今度は拓海と一緒に仕事をすることが夢になった。
「俺が本当に叶えたい夢は漫画家になることじゃないんだ。俺は本を読むのが好きで、時々読んだ本のイメージをイラストに起こしてみたりするけど、いつもしっくりこなくて。
でも、拓海の話は違うんだ。拓海が作った話は、イメージがすっと頭に入って来るっていうか……拓海の話をイラストにすると、すごく、ああ上手く描けたと思うことが多いんだ。いや、多いんじゃなくて、いつもそうなんだよ」
夢中で話した。
拓海は何も言わず、静かに海斗の話を聞いてくれている。
結論を急ぐこともなく、何とか順序建てて話そうとする海斗を柔らかな微笑を浮かべて耳を傾ける。
それは、兄が弟の話を聞くそれだった。
本当に兄貴だったら良かったのに。
こいつが弟だったら。
互いにそう思っていることは、言葉を交わさなくとも当たり前のようにわかった。
「だから俺は、拓海と一緒に仕事をしたくて」
「そんなの、もうずっと前から分かってたことだったじゃねえか」
初めて拓海が口を挟んだ。
ベッドの上にあぐらをかき、腿に肘をついて手のひらが顎を支える。
「ガキの頃から海斗は俺の隣に並びたがってただろ」
空いた手が海斗に座れと指示を出す。
腰を下ろした海斗の頭に指示を出した手がぽすっと乗った。
「変わんねえな、お前は」
「まだ子どもだと思ってるのか?」
「褒めてんだよ」
むっとして唇をつき出すと、拓海は更に笑みを深めて髪を乱した。
流れるようにベッドに寝転がる拓海が背中を向ける瞬間。
お前はそのままでいてくれよ。
空耳とも勘違いしそうな小さな声が、針となって海斗の胸を刺した。
ごめんな拓海。
俺はもう、昔の自分とは変わってしまった。
もう、昔のままではいられないんだ。
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