昔語り

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 お墓へ到着し、植木に水をやったり、お墓を拭いたりと両親の手伝いをしていた。その訳はお供え物のお団子や、どら焼きが欲しかったからだ。なんともこの時から食い意地を張っていたように思う。妹と弟は最初こそ私の周りを飛び跳ねたり、手伝いをしたいと駄々をこねたが、それにも飽きると、お墓の間の道を走って遊んだ。直線しかない道は五〇メートル走のようで走りやすかったのだろう。母が走るなと注意したが。そんなのはお構いなしだ。だっだっだと勢いよく走って行っては帰ってきたり、助走をつけて飛んでみたり、弟妹たちは飽きることを知らないようだった。時には豆粒くらいになるまで遠くへ行くので心配ではあったが、それよりも私はお供え物にしか目がいかなかった。  ようやく掃除が終わり、線香を供え、おじーちゃんおばーちゃんにばいばいしよーね、と母が辺りを見回した時だった。さっきまでキャーキャー言いながら走り回っていた二人の姿が見えない。背が小さいから見えないのだろう、と安易に考えて墓の間をのぞいてみたが、どこにもいない。父も母もさすがにおかしいと感じ始めた。入口まで戻り、事務所の職員に事情を説明して、霊園全体を探したがそれでもいなかった。小さな原っぱや、休憩所、建物の中、川のそば、至る所をのぞいてみたが、どこにもいない。昼前だった太陽は傾き、空のオレンジ色が濃くなってきた。両親が警察を呼ぼうか、と深刻に話し始めている。食べ物のことばかり考えていた私は、小さいながらに責任を感じて一人で祖父母の墓へ戻ってみた。弟と妹の名前を叫びながら。
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