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「お待たせ♪」あいつが缶コーヒーを持って帰ってくる。
「コーヒー買うだけで時間かかりすぎだろ」
「迷っちゃって」と右横に座る。
「ブラック飲むんだね」
「ばかにしてる?」一口啜るが、我慢しているのがはっきり分かる。
子供の声がする。半ズボンの男の子とミニスカートの女の子。小学校は下校の時間だ。
「何年生かな?」
「二年生くらい?」
「二年生って……八歳だっけ?」
「そうだな」指を折って確かめる。
「十年前か……」二桁になると、もう昔だ。
小さな二人がブランコをこぎ始める。リズムよく甲高い声を上げながら遠心力に支点は耐える。振れ幅はどんどん大きくなっていく。
「で、俺の分は?」
「ん?」
「コーヒー」
これ、と言うかのように右手を上げる。その手には一本の缶コーヒー。
「さっき飲んだヤツだろ?」
うん、と首を縦に振る。
「自分のは?」
「これ」
「俺のは?」
「……これ」
ブランコはキー、キーと声を漏らす。
「普通二人分買ってこないか?」
「普通、男が買ってこないか?」
「……」冷たい風がまばたきの量を増やす。
「迷ったって言ったじゃん?」
「ああ」
「一本買うか、二本買うか……」
少女は立ちこぎを始める。スカートの乱れなど微塵も気にしていない。
「飲む?」そっと右手を差し出す。
しょうがないな、という顔をして受け取る。目線を逸らして、必死に顔をつくる。
空白の三年間を一気に縮めてくる。距離感がつかめない。
あいつはモテる方の部類だ。彼氏がいた時期もあった。高校でもそうだったかもしれない。
訊けない。知りたいけど、知りたくない。
「久しぶりにブランコ乗ってみようかな」
「その恰好で?」あいつのスカートの短さも少女と大した違いはない。
「半ズボン履いてくる?」
「やだよ」
まだ似合うよ、とあいつは笑う。あいつの笑顔には裏がない。
「……変わってないね、私たち」
「……変わったよ、お互いに」
もう二人とも子供じゃない。昔とは違う。
幼馴染で遊び友達。いつしかそれは、男女に変わる。
互いに相手の知識が増える。触れられない部分を知る。
距離をはかって、気持ちを察して、反応を見て、言葉を選んで。
もう理由なく手を繋ぐこともない。話すだけで周りの目に気を遣う。
二人とも大人になった。
「変わったけど、変わってないよ」
一口、コーヒーを流し入れる。
「きっとこれからも変わらない」
そうだな。
苦くて甘い味がした。
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