第12章

4/8
638人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
 俺は霧生さんの手を強く握りしめた。そうしないと霧生さんがこのまま消えてなくなってしまうような気がして。 「君に見られてしまったんだ。俺が人間の血を貪っている姿を。言い訳のしようもなかった。慌てて暗示をかけようとする俺に君は、『先生は吸血鬼なの?』と言ったんだ。驚いて泣き出したり、恐怖で震えたりせずにまっすぐな目で俺を見て」 「そんなの、俺全然覚えてない……」  呟く俺に、霧生さんは寂しげにこくりと頷いてみせる。 「『じゃあ、僕の血を吸っていいよ。先生はお父さんも僕もお母さんも全部助けてくれたんだから。今度は僕が先生にお礼させて』、そう言われて俺は何も言い返せなかった。俺を見上げる瞳にはなんの迷いもなくて、それどころか俺に対する憧れや好意がありありと見て取れた。自分が正しいと思うものを正しいと貫き通す強さ、潔さ、無邪気さに触れて、俺は急に自分が醜い化け物に思えてきたんだ。自分の手は、体は、こんなにも薄汚れているのにそんな自分が人間の命を助けるだなんていい気になって何様のつもりだ、ってね」 「霧生さんが薄汚れてるだなんて、そんな……」     
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!