第12章

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「だから吸血の記憶だけでなく、君の中の俺の記憶をすべて消し去った。こんな穢れた自分のこと、こんなに清らかで純粋な子供の心の片隅にでも残しておくべきではない。そうでないと、自分自身が許せなくなる。……あの時も結局、俺は君から逃げたんだ。あのあとすぐに大病院の医師を辞めて献血ルームに転職した」  子供の頃の自分が、まさか霧生さんの生き方に影響を与えていたなんて思いもよらなくて、俺は絶句した。 「献血ルームで会った時、すぐわかったよ。まっすぐな目が全く変わってなくて、すごく興味をもった。どうして純粋なままでいられるのか。最初は、本当に一回だけのつもりで血をもらった。だけど、無理だった。君に向き合うと俺は自分が制御できなくなる。のめりこんではダメだ。引きずりこんではダメだと思うのに、もっと近づきたい気持ちを抑えきれなくなる」  ふっ、と笑う霧生さん。腕を引き寄せられ、なされるがままに頭を肩に預けた。 「さっきは契約のことをあんな、いかにも自己犠牲みたいなかっこいいこと言ったけど、本当はそれだけじゃない。君がほしくてしかたなかったんだ。抱きしめて自分のものにしてしまいたい衝動を止められなかった」 「俺は、そうやって霧生さんが求めてくれるの嬉しいですけど」  背中に回された手に力がこもる。ぎゅっと抱きしめられていて表情は見えないけれどとても苦しそうな声だ。     
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