第12章

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 そういえば、あの時家に帰り着いた直後に激しい眩暈に襲われた。まさかあれが? 「だけど君は俺を訪ねてきた。正直、驚いたよ。君はもしかして暗示がききにくい体質なのかな。暗示がきかないなら、と身を切られるような思いでわざと冷たい態度をとってみたりもした。これはヤバいと引越して逃げようとまでした。結局は無駄だったけどね」 「忘れるわけないじゃないですか! 俺の心の真ん中まで占領したくせに。どうして、最初から諦めてるんですか。いつだって自分で勝手に決めて。勝手に自己完結しないでください! 俺、霧生さんみたいに長い時間を過ごしてないからそれがどんなものなのかわからない。わからないけど、俺の気が済むまでは霧生さんのそばにいるから。俺、何の役にも立たないかもしれないけど一緒にいますから。霧生さんが俺でいいって言ってくれるなら俺ずっと一緒にいますから」  霧生さんの言葉の端々から、まだ俺から身を引こうとしているような雰囲気がにじみ出ている気がして、俺は一気にまくし立てるように、自分の気持ちを全部ぶちまけてやった。  鼻息荒く「どうだっ」と、ばかりに霧生さんを睨みつける。 「勘違いしないでくださいよ、霧生さんが俺を必要としてくれているか、じゃない。俺が霧生さんを必要としているから。言っときますけど、俺、相当しつこいですから霧生さんのほうが先に根を上げるかもしれませんよ」 「……なんだか、プロポーズの台詞みたいだね」  ぽかんとしていた霧生さんは、そう言うと顔を綻ばせた。  確かにプロポーズみたいだ。自分で言っておいて、今更ながらこっぱずかしい。だけど、ちゃんと伝えたいとずっと思っていたので、なんだか清清しい気持ちだ。 「本当に、君には驚かされてばかりだ」 「いつも驚かされてるのは俺のほうだと思いますけど」  真っ赤な顔のまま、口を尖らせてそう反論してみた。 「そう?」  霧生さんの指が優しく俺の頬に触れる。目と目が合って自然と唇が引き寄せあう。
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