第1章

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「こんにちは」  入り口のドアを開けると、すぐさま受付にいたボランティアの女子高生がにこやかに声をかけてくる。  黄色いエプロンが全く似合ってないな、などと思いつつ、俺はジーンズの後ろポケットから一枚のカードをとりだしカウンターの上に置いた。 「こんにちは。献血しにきました」 「はい、ご協力ありがとうございます。遠藤耕平さんですね。ではこちらのほうで暗証番号の入力をお願いします」  受付嬢はカードをカードリーダーに通して記された名前を確認すると、まるでファミレスのウェイトレスのようなマニュアライズされた口調で小さな端末を差し出した。  ミ(三)、ナ(七)、ゴ(五)、ロ(六)、シ(四)とこの場には到底似つかわしくない物騒なことを口の中で唱えながらかちかちとキーを叩く。  端末で照合を確認した受付嬢はさらにウェイトレス感覚で言葉を続けた。 「では、そちらのタッチパネルの方で問診表に入力していただいてからあちらの問診コーナーで先生の問診を受けてください」 「はい」  俺は逸る気持ちを抑えすっかり暗記してしまっているタッチパネルの問いにすばやく回答を入力し、結果をプリントアウトし、それを持って受付嬢が指差した先にあるパーテーションで間仕切りされたコーナーに向かった。  もうすぐ、もうすぐだ。
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