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「遠藤くん、君さ、俺の愛人にならない?」
「……はぁっ!?」
口に運びかけた上カルビを危うく落とすところだった。いや、もちろんそんな大事なものを落とすはずもなくちゃんと口に納めたのだが。この人の言葉はどこまでが本気でどこまでが冗談なのか判断に苦しむ。
「お断りします。俺、勉強とかバイトとか家事とか忙しいんで。あなたの相手してる暇なんてこれっぽっちもありません」
至って冷静を装って返事する。霧生さんのペースにのまれっぱなしではいられない。俺だって学習するのだ。
「そっかぁ、残念だなぁ」
そう言いつつも、さして残念そうな様子はない。両手を後ろにつき反り返り、天井を見ている。
「焼肉とか寿司とかタダで食べ放題なのになぁ……」
俺は、愛人やりますと思わず言いそうになるのをぐっと堪えた。なんでこの人はこうも、俺がグラっとくる台詞を次から次へと繰り出してくるのか。
「食べ放題は正直魅力的ですけど! 愛人っつったらそれを身体で返すのが仕事なわけでしょ? 俺、ムリですよ。あんなこととか、こんなこととか……」
言いながら俺はイロイロなことを想像して赤くなってしまった。
恥ずかしまぎれに、網の上のカルビを意味もなくひっくり返してみたりする。
「まぁ、そういうことになるのかな?」
霧生さんはくすくす笑っている。絶対、俺をからかって遊んでいるのだ。
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