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「気づいてるもんだとばっかり思ってたんだけど」
「それはそれは、気づかなくて申し訳ないことしました」
俺が茶化すように言ったのが気に入らない様子で睨み付けてきた。
「だって、あの時『飢えてるんだろう』とか『人間のすることじゃない』とか『一体何者なんだ』とか言ってたじゃないか! だからてっきりバレてるのかと」
「いやいやいや、そんなような事は確かに言いましたけど! 誰が本気で『こいつ人間じゃない』とかいきなり思うんですか! 言葉の綾ってヤツですよ!」
「じゃあ、昼間は何をされてるかわかってなかったの?」
霧生さんは自分の首筋を人差し指でつついて見せる。
たしかに、あの時。口にキスされてもパニクるだけでどうってことなかったのに、首筋だけはありえないくらい気持ちよくて……。
「え、えーと、なんかすっげぇ気持ちいいなぁとしか……」
「なんだ、やっぱり気持ちよかったんじゃないか!」
何故、そこを咎めるか。
というか、また論点がずれてきているような気がする。
「普通、首筋にキスされただけでそこまで気持ちよくならないでしょうが!」
「し、知りませんよ! 俺そんなんされるの初めてだったんだし!」
「ああぁ……」
霧生さんは何かを思い出したように頭を抱え込んでしまった。
どうせ、俺が経験値ゼロの童貞だってことを思い出したのだろう。
「ほら、霧生さん注射も全然痛くなくてうまいし、こういうもんなのかなぁ、と……」
こんな状況でも打ちひしがれている人を見ると、なんだかわけわかんないフォローをしてしまう自分が情けない。
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