第3章

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「気づいてるもんだとばっかり思ってたんだけど」 「それはそれは、気づかなくて申し訳ないことしました」  俺が茶化すように言ったのが気に入らない様子で睨み付けてきた。 「だって、あの時『飢えてるんだろう』とか『人間のすることじゃない』とか『一体何者なんだ』とか言ってたじゃないか! だからてっきりバレてるのかと」 「いやいやいや、そんなような事は確かに言いましたけど! 誰が本気で『こいつ人間じゃない』とかいきなり思うんですか! 言葉の綾ってヤツですよ!」 「じゃあ、昼間は何をされてるかわかってなかったの?」  霧生さんは自分の首筋を人差し指でつついて見せる。  たしかに、あの時。口にキスされてもパニクるだけでどうってことなかったのに、首筋だけはありえないくらい気持ちよくて……。 「え、えーと、なんかすっげぇ気持ちいいなぁとしか……」 「なんだ、やっぱり気持ちよかったんじゃないか!」  何故、そこを咎めるか。  というか、また論点がずれてきているような気がする。 「普通、首筋にキスされただけでそこまで気持ちよくならないでしょうが!」 「し、知りませんよ! 俺そんなんされるの初めてだったんだし!」 「ああぁ……」  霧生さんは何かを思い出したように頭を抱え込んでしまった。  どうせ、俺が経験値ゼロの童貞だってことを思い出したのだろう。 「ほら、霧生さん注射も全然痛くなくてうまいし、こういうもんなのかなぁ、と……」  こんな状況でも打ちひしがれている人を見ると、なんだかわけわかんないフォローをしてしまう自分が情けない。
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