第4章

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 すっかり機嫌をよくした霧生さんが連れて行ってくれたのは郊外のイタリアンレストランだった。漆喰の白い壁とオレンジ色の瓦屋根の建物は南欧風でとても凝っていて異国情緒たっぷりだ。  霧生さんは今回も予約を入れておいてくれたらしい。夜遅い時間にも関わらず店内はかなり賑わっていたが、すんなりと一番奥の居心地のよさそうな席に案内された。  またしても何でも頼んでいいと言われ、俺は自分の胃袋と相談しつつも興奮気味にあれやこれやを注文した。前回は全く食べなかった霧生さんも、今回はずらりと並んだ皿の中から少しずつ取り分けている。 「今日はちゃんと食うんですか?」  他の客に聞かれないようひそひそ言うと「人間っぽく見せるためにね」と悪戯っぽい顔でウィンクをして、ぱくりと生ハムのサラダを口にいれた。何をしても様になる霧生さんに思わず見惚れてしまいそうになる。いかんいかん、と頭を振り目の前のおいしそうなご馳走に視線を移した。  まずは焼きたてのピザ。誕生日の日や親父のボーナスが出たときなど特別な日には我が家でも宅配ピザを頼むが、店で食べるピザは初体験だ。端っこがぱりっとしていて真ん中のあたりがてろんと垂れそうになるのを零さないよう慌てて頬張る。 「うっまー!」 「ここのピザは石窯で焼いてるから美味しいでしょ」  言いながら霧生さんもピザに手を伸ばす。やっぱり食事は一人でするより、一緒に楽しんでくれる人がいるほうがいい。おいしさも倍増だ。こくこくと頷きながら、俺の目は既に次のターゲットに狙いを定めている。 「わ、これも美味い!」  名前だけは聞いたことがあるが、なんなのかよくわからないまま頼んだスパゲティ・カルボナーラ。クリームシチューのようなソースがかかっているが、想像した味と少し違った。 「んー……、何でできてるんだろ。生クリームとチーズと……玉子?」  舌先でゆっくりと確かめるように吟味する。濃厚でこってりしたチーズにまろやかな玉子がよく合っていて、本当に美味い。分厚いベーコンも上に乗っているが、これは特売品の薄切りベーコンで代用できそうだ。今度、我が家でも作ってやろう。
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