第1章

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 そうなのだ。今まで通っていた献血ルームは俺の通う大学から目と鼻の先にあった。俺はその便利さから、献血の最小間隔である十二週間毎にきっちり通うことができた。それなのに、そこが来訪者の減少や施設の老朽化とかを理由に先日閉鎖してしまったのだ。おかげで俺は、こんな自転車で三十分もかかる場所まで遠征する羽目になってしまった。  しかし、これしきの事でへこたれる俺ではない。 「これからはこちらでお世話になります!」  がばりと頭を伏せ、挨拶も兼ねて決意表明をしてみた。 「献血好きなんて変わってるね」  にやっと笑う口元から尖った犬歯が見えた。 「えぇ、まぁ……」  俺は曖昧に答えて、鼻の頭を掻いた。  普通の感覚の人に理由を言ってもわかってもらえないのは自分でも承知している。 「じゃ、まぁ大丈夫だとは思うけど。いちおう決まりなんで問診させてもらうね」  クリップボードを持ち上げ、挟まれた用紙に記載された文章を読み上げ始めた。 「今日の体調はよろしいですか?」 「はい」 「この三日で出血を伴う歯科治療は受けていませんか?」 「受けてないです」 「この一年間に、不特定の異性との性的接触はありましたか?」 「ないです」 「過去に男性との性的接触はありましたか?」 「ないです」 「ヴァージンです……っと」 「……はぁっ?」  い、今コイツとんでもないこと口走りやがりませんでしたかッ!? 「はい、結構ですよ。次は血液検査のカウンターへどうぞ」     
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