第7章

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 梅雨の晴れ間の蒸し暑い午後一時過ぎ。  汗だくになりながら献血ルームの入っている雑居ビルの前に自転車を停める。前回ここに来たのは三月だけど、ずっと昔の出来事のような気がする。あの時はまさか自分がこんな風に家族以外の誰かのことで頭が一杯になるなんて思ってもみなかった。火照った体とぐるぐると回る気持ちをクールダウンさせるために、ハンドタオルで額の汗を拭い一息つく。  以前なら週に何度か霧生さんからの連絡が携帯に入っていた。それがぷつりとなくなってしまってから、もう二週間経つ。  最初のうちはさして気にならなかった。気恥ずかしくて何を話していいかわからないし、まだ気持ちの整理だってきちんとはついていなかったから。むしろ、少し時間をおいて考えてみるのもいい、なんて暢気に思っていた。  霧生さんも俺と同じで照れてたりするのかな、なんて考えては鳴らない携帯を手に取って見つめてみたり、触れた指先の熱さだとか、汗のにおいだとか、いろんなことを思い出して一人で赤くなったり。フラチな邪念を追い払おうと普段より忙しく立ち回ってみたりもした。     
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