第1章

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 献血室に移動すると、そこは平日の昼過ぎとあって人の姿はなく、俺はいくつか並んだ献血ベッドのうちの一つに横になった。ベッドといっても歯科病院にある診察台のようなもので、どちらかというとリクライニングチェアに近い。完全に横になることはできないので「座る」といったほうが正しい表現だろうか。  ほどなくして、先ほどの医師が近づいてきた。 「四百ミリリットル献血ですね」  さっきのこともあり、気恥ずかしさから俺は俯いた。 「はい、そうです」  手際よく針をチューブにセットすると、採血用よりはるかに太いその針を俺の腕に刺した。驚いたことに、ほとんど無痛だ。今まで何回も献血をしてきたが、これほどまでに痛みがない事は滅多にない。さっきは変な事を口走ってたから信用していなかったけど、この人かなり注射は上手だ。 「痛かったり、気分悪くなったりしたら呼んでください」 「はい」  俺はゆっくり目を閉じた。四百ミリリットル献血だと十分から十五分はこのままだ。退屈で苦痛だけど、あと十五分したら食べ放題が待っていると思えばどうってことはない。  あぁ、この『放題』って言葉もステキだよな……。口許が思わず緩んでしまう。
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